大学時代の専攻はフランス文学だった。
決めた理由は「仏文が一番面白かった」からだ。高校生の頃から大学では仏文をやると決めていた。
元々はどこにでもいる普通の読書オタクで、中学生の頃は人並みに太宰なんかを読んでいたのだが、高校の進路調査の欄に「〇〇大学 〇〇学部 〇〇学科」と書く欄があり、「そうか、漠然と文学をやりたいじゃダメなんだな」と、勘違いし、図書室にある海外文学の和訳を片っ端から読んでいった。一番面白かったのが仏文だったのだ。
「〇〇学科」の欄が「医学部 看護学科」などと書くために必要だったのだ、と気づいたのは高校を卒業した後だった。
さて、高校図書館の蔵書と、中学の時に買わされた分厚い国語便覧に載っていた本を中心に手を出していたので、私の趣向は文学好きにしては比較的王道だと思う。
というか、みんな私のことを「尖っている」とか言うけれど、こう見えて趣向は結構ベタベタのベタ、というかかなり王道寄りだと思いますぜ、先輩。好きな画家はルノワール、好きな作曲家はドビュッシーだもの。
さて、「仏文のリアリズムに興味があります!」と仏文科に編入したはいいが、入ってみると同じ趣向の人間が院生含め誰もいなかったのには本当に驚いた。
「え、教授の専門がフローベールなのに誰もその方向に興味ないのかよ!」
という感じだ。
入学した当初、授業で扱う題材が「赤と黒」「星の王子様」「トリスタンとイゾルテ」「恐るべき子供たち」「ペローの童話(赤ずきんちゃんとかシンデレラとか)」などなど、今まで読んできた大好きな小説の名前がずらりと並んで、履修登録の段階でもう死ねるほど幸福だったのだが、そんな変態は自分しかいなかった。
そもそも、当時の仏文専攻には文学オタクさえおらず、フランス語能力は底辺なのに知識だけ人一倍ある私は普通に異質の存在だった。
研究室に「同期」にあたる存在がいなかったことに、ある意味救われた。
冷静に考えたら、旧帝大に現役で入るような人間に「図書室の蔵書を片っ端から読み漁る」経験がある方が異常なのだ。10年前の自分よ、大人しく勉強しやがれ。
当たり前の話なのだが、世間広しと言えど、「フランス『文学』」に特化した大学生の所属できるコミュニティなどほぼ存在しないのだ。学会は置いておくとして。
入ってみてから、少なくとも学部生は比較的ふんわりと「フランス」に興味がある、という感じで選ぶことが多いような印象を受けた。
主にフランスの「文化」
でも未だに理解できないのが「フランス語ってかわいいよね」ってやつ
そうかね?
鼻濁音とか使って喋る言語がお世辞にもかわいいとはとても思えないんだが。というか、言語に言語に綺麗もかわいいも特にないと思う。
また話が逸れてしまった。
普通は大学2年生で研究室に配属されて、片っ端から専門の授業を詰め込んでいくうちに「方向性」を見つけていくものだが、その「方向性」がなかなか面白かった。
バレエをやっていた女の子の専攻が「マノン•レスコー」なのもなかなか選択が尖っているし
(マノンはバレエ演目として結構マイナー。『ノートルダム•ド•パリ』とかで良かったじゃない、エスメラルダのヴァリエーションしか有名じゃないけど、書いたのユーゴーですよ。)
それなりに仏文に触れてきた自分でも「誰それ!?」というような専攻に進む人が本当に多かった。ブランショとかルネ•ヴィヴィアンとか。バタイユとか最早哲学の範囲じゃないか。
(これを書くまでルネ•ヴィヴィアンの名前を忘れていたので、記憶を頼りに必死に検索したら知り合いの論文が一番上に出てきた。ウケる)
いや、いたよ? バルザックやってた先輩。でもその人だけだったよ!?
他にもいっぱいいるじゃん、有名な仏文作家!! スタンダールとか、アレクサンドル•デュマとか、コクトーとか、ボードレールとか、サン=テグジュペリとかカミュとか!!!!!!! これ全員ベッタベタのベタだからね!?!?
「仏文って何があるの? 」って訊かれた時に真っ先に出てくるような作家しか書いてないぞ、おい!!!!!!
なんで誰も知らないんだよ!!!!!
で! どこで知ったんだよその作家!!!!!
はい。
「ボヴァリー夫人」について夜が白むまで語り合ってみたかったです。
あわよくば文学談義でぶちのめされてみたかったです。
儚い夢でした。