笑える理由はただ一つ
上司がコツメカワウソにそっくりなのだ。
丸顔なのは言わずもがな、左右に離れた黒目がちの目、低めの団子鼻、口角が下がり気味の口。どこからどう見てもカワウソにしか見えない。
この天才的な発見を本人に言ったら
「人間じゃない」
と怒られた。
だがこの上司、普段から私のことを「『少女椿』の緑ちゃんに似ている」と言ってくるような人だ。
要するに、劇画調の筆致で描かれた薄幸そうなおかっぱの女の子、というイメージなのだろう。純粋に誉めているわけではないのは明白なので、私が上司を「カワウソ」というのもおあいこだと思っている。
上司は最近、別の人からも「カワウソに似ている」と言われたらしく、この事実を受け入れつつある。
「カワウソってどこに住んでいるの」
と、訊かれたが、パッと答えられなかった。
後々で調べてみると、寧ろカワウソは古くの日本ではタヌキやキツネ並みに馴染みのある動物なんだそうだ。言われてみれば確かに、カワウソが登場する民話は少なくない。最近評判の日本酒「獺祭」も「カワウソの祭り」と書く。カワウソが獲った魚を川岸に並べる様子を祭りに例えたもので、調べ物をするときに書物を広げ散らすことを指すらしい。
上司がカワウソに似ている、という話はなかなか周囲に受け入れてもらえない。
「こんなかわいい動物に例えたくない」
というのが専らな意見だが、本来カワウソはかわいいだけの生物というよりは、人間を化かすような身近でユーモラスな存在であったのだ。
そう思うと、含蓄があって面白い例えだとは思わないかね、と私は思っているのだが、今日も本人以外に受け入れられないまま机の上のカワウソを見ては「似てるなあ」とため息をつくのだ